Maru Kozakura’s
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【感動風】サンプルシナリオ 小説Ver
高校二年生の夏休み初日。
夢もない僕は二十二時頃に今日も裏山にある展望台で、ゆったりと星を眺めていた。
「こんばんは! 私は未来からやってきた"未来人"です!」
しかし隣に突拍子もなく現れた黒髪の少女によって僕たちの"未来"は大きく変わった。
「どう? 未来人の話し相手になってみない?」
疑いはしなかった。
僕は快く話し相手の承諾をする。
「えーっと、あなたの名前は?」
雨宮ツムグ。
僕はそう名乗り、 今度は少女の名前を尋ねてみれば、
「私は"ホシゾラ"だよ」
少女は"ホシゾラ"と名乗った。
「じゃあさ。私、未来からやってきたんだけど何か聞きたいことある?」
その日から、僕は毎日この展望台で少女と他愛もない話をした。
「あれが夏の大三角形。ほら、あそこあそこ」
少女は天体にとても詳しい。
毎晩、僕に様々な星座を教えてくれる。その度に僕は少女へと好意を抱きつつあった。
「そっか。もう夏休みが終わっちゃうんだ」
長い夏休みも、気が付けば最終日を迎えていた。僕は「好きだ」という想いを伝えるために、展望台へやってきたのだが、
「実はね、私もこの時代にいられるのが今日で最後なんだ」
少女はそう告白をした。
「未来だと、肉体は肺癌で死んじゃってるから。"魂"だけこの時代に飛ばしてもらったの」
肺癌。
未来でも、癌の治療率は百パーセントに到達していないのか。
「綺麗な星空が沢山見れたし……。この時代に来て、正解だったなぁ」
僕は少女の肩に触れようと、手を伸ばす。
「……私に触れないでしょ。これで少しは信用してくれた?」
僕の手は少女の身体をすり抜ける。思わず自身の手の平を見つめた。
「そろそろ時間、かな」
二十四時まで残り一分。僕は「生きてくれ」という想いを吐き出す。
「ずるい……よっ……」
少女も嗚咽をついに堪え切れず、本心を吐き出した。
「私だって、未来でもっと生きたい……ッ!」
残り三十秒を過ぎれば、少女の身体が薄くなっていく。
「勉強して、大学に入って――"天文学者"になりたかった……!!」
天文学者が少女の"夢"。
僕は消えつつある少女の身体に手を伸ばす。
「ありがとう。ツムグと出会えて、本当に良かっ――」
姿が見えなくなる。
声が聞こえなくなる。
僕が掴んだものは虚空。
少女の手は、魂は、掴めない。
その場に膝を付き、泣き叫んだ。
遠い未来に向かって。
ひたすら泣き叫び、ふと星空を見上げる。
瞳に映るのは綺麗な"天の川"。
『天の川ってね。沢山の恒星が集まって、ああいう風に見えるんだ。それに地球は天の川の外側じゃなくて……実は内側にいるんだよ』
そんな少女の言葉を思い出す。
未来も、一緒じゃないか。
小さな星が橋となり、織姫と彦星を会わせてくれるのなら…。小さな積み重ねが、僕と少女が会える未来を作り上げる。物事の見方を、僕自身が変えろ。
少女の命を、少女の未来を、少女の夢を――
――僕が、救ってみせる。
「……ん、んん?」
私は目を覚ます。
私の魂は戻るはずのない死んだ肉体へと帰ってきた。
「目を、目を覚ましたぞ……!」
お父さんとお母さんが私に駆け寄り、優しく抱きしめる。私はワケが分からず、二人を交互に見ていた。
「治療薬が効いて良かったわね…! 目を覚まさなかったらどうしようかと…!!」
治療薬。
そんなものでは、私の肺癌は治療できなかったはず。
「あぁ、"アイツ"には感謝しかないよ…!!」
アイツ。
お父さんがそう言うと、病室の扉が静かに開いた。
「ケンイチ、ハルカ。娘さんが目を覚ましたようで安心したよ」
白衣を纏った男性。
二人とは親しい仲のようだ。
「あなたは……?」
まさか、そんなはずがない。
その男性は、私に対してこう声を掛けた。
「ホシゾラ。今度は君が夢を叶える番だ」
私は感情が迷子となり、涙が溢れ出てしまう。
「勉強して、大学に入って……。天文学者になるんだろ?」
遠い未来の話。
癌の治療薬を生み出した偉大な医師により、とある少女の命は、未来は、夢は――"紡がれた"。